最終更新日
Thu, Mar 13, 2008
「感情の噴出」

5)身体接触を伴う競技
 またスポーツの中でも身体接触を伴う競技は、特に闘争本能を呼び覚まし、日常生活では発揮されることのない感情が外に現れやすくなる。心理学者が指摘するように、人には「個体距離」というものがあり、その領域の中に侵入してくるものには憎しみをもって対処するか、あるいは逆に愛情をもって迎えるものだという。

 愛する者を個体距離の中に喜んで迎え入れるということは経験的にもよく理解できる。また縄張りに侵入してくる敵に対しては、激しい攻撃を仕掛ける動物と同じように、境界線を犯した侵入機に対して緊急出動した戦闘機のニュースはよく耳にするが、人の持つ個体距離の感覚も同様なものと考えて良い。

 身体接触の激しい格闘技は、見る者にも興奮を呼び起こしやすい。格闘技の中にも身体接触の少ない競技もあり、その嗜好は階級と関連性があるとP・ブルデューは述べていて、エリアスのいう「文明化」との関連性を思わせる。

 合気道、柔道、レスリングはいずれも格闘技に分類されるが、それぞれの身体接触の量は異なる。柔道は合気道に比べるとはるかに身体接触が多いが、レスリングはそれ以上である。常に相手と接触しており、完全に密着してプレイすることもある。レスリングがプロレスとして興行され人気があるのは、見せ物とはわかっていても身体接触に伴う暴力性に人は興奮するからである