前回、身体技能の習慣は真似から始まると述べたが、このことについて再度、伝統芸能を例にもう少し考えてみたい。
「真似」は無意識裡に自動的に行われるわけではない。
真似・模倣は伝統芸能の伝承の場ではもっとも普通のことで、師匠と起居を共にし、一心同体の生活を送ることによって自然に身につき、ひたすら受動的に師匠の指導に従うことであると一般的に理解されている。しかし、多くの継承者は、師匠に教えてもらったことなどないと言うのが常である。
「駄目だ」と一言叱られるだけで、あるいは禅問答のようなことばをかけられるだけで、どこが間違いなのか、どう修正していくべきなのか、そのためにはどうすれば良いのか、といった具体的な指導は受けたことがないと言うのだ。
どうすれば師匠の技を身につけられるかと日々思い悩み、その謎かけのようなことばを自分なりに解釈しながら、自力で修得していった結果が今の演技につながっている。師匠に手取り足取り教えられたわけではない。
試行錯誤しながら長い年月をかけて技能を身につけていく過程は、強い意志や意欲の支えがなければできないことで、それをもとに「気づく」「考える」「工夫する」というもっとも主体的な解決活動が行われたのである。この指導形態をそのまま今の子どもたちの指導に持ち込むわけにはいかないが、ここから学ぶべきことは多い。